ユメガタリ
 結構新しい二階建ての家だ。表札には『杉田』と書いてあったが無視して玄関を勝手に開ける。ドアはすんなりと開き、招き入れた。これもいつものことだ。何故か毎回家に鍵がかかっていないのだ。これも手紙の主の仕業なのだろうか?そうだとしたらかなり手が込んでいる。最初はドッキリかと不審に思ったものだ。
 リビングにある椅子の4つあるうちの一つに座る。後は待つのみだ。残り20分。何をするわけでもなく本当にただ座って待つ。
 チクタクチクタク
 三時になる。空気が変わる。理論ではなく本能で、視覚ではなく空気で、変わったのがわかる。
 目を閉じて開く。
 世界が変わる。
 家の中から見渡す限り白い世界へ。
 上も
 下も
 右も
 左も
 その空間の中で二本の足を使って立っている自分がいる。
 足下には地面は存在していないのにしっかり踏むしめている。
 椅子はどっかに消えた。あった場所を手で探ってみるが何の感触もしなかった。
 突然、目の前の空間から生き生きとした小さな芽が出てくる。根っこはわからない。空間から唐突に生えている感じだ。軽く触ってみると有り得ない速さで成長し始めた。やがて、自分よりも大きくなって蔦を伸ばして辺りに際限なく支配する。当然巻き込まれた。
 蔦の一部となって空中を昇る。ジャックと豆の木、現代版。
 どれぐらい上ったかわからなくなってきた頃に背中から天井に押さえつけられた。背中と頭をぶつけた痛みが体を駆け巡る。そんなことはお構いなしに蔦が互いに絡まりだして根っこを形成し始める。逃げようと伸ばす手に蔦が絡まる。体をはじき返される。
 逃げ出せない
 巻き込まれる
 だが、わかっている
 死なないことを
 これは夢だ
 『夢』だ
 夢を忘れた自分に対して『夢』を見せているんだ
 ……『夢』……か
 『     』
 気づいた瞬間世界が崩壊し始める
 白が壊れる
 白が崩れる
 蔦が消える
 緑が消える
 落ちる
 堕ちる
 自分も
 意識も
< 3 / 4 >

この作品をシェア

pagetop