腹黒王子に秘密を握られました
 
ということは、依頼主は単身ではなく家族がいるんだろうな。
もしかしたら、子供も。

売ろうとしている分譲マンションの大体の査定額を知ってから、次に住む物件の目星をつけたいとなれば、住んでいる状態で内覧をしてもらうことになる。

業者とはいえ赤の他人に、水回りから収納までこまかくチェックして査定されるのをためらってしまうケースも多い。

自分の生活の場を覗かれるのは、できるだけ少ない方がいいに決まってる。



そんな私の想像通り、事務所にやって来たのは家族連れだった。

三十代の夫婦と、幼稚園児くらいの男の子。
すりガラスのパーテーションで区切られた応接セットに通し、金子に声をかける。

コーヒーと、男の子のためにオレンジジュースとお菓子を用意して応接セットへ行くと、どこかギスギスした不穏な空気が漂っていた。

珍しい。
人当たりがよく口のうまい金子の商談の席で、こんな空気になるなんて。

そう思いながら、邪魔にならないようにお茶出しをする。

「せっかく思い切ってマンションを買ったのに、こんなにすぐ売ることになるなんて。しかも買った時からこんなに下がるなら、最初から買わなきゃよかった!」

「お前、そんなことを今更言ったって、しょうがないだろ」

感情を隠しきれず不満をもらしはじめた奥さんと、それをたしなめるように低い声を出す旦那さん。

「誰のせいでこうなったと思ってるのよ!」

二人の様子から、離婚が原因で家を手放すことになったのかなと察してしまう。


< 50 / 255 >

この作品をシェア

pagetop