腹黒王子に秘密を握られました
「すいません」
声を荒げた奥さんに、旦那さんは諦めたようにため息をついて、彼女ではなく金子に向かって頭を下げた。
「いえ、実際に査定の金額を知って、色々割り切れなくなるお客様も多いんですよ。気になさらず、思ったことをおっしゃってもらえた方が、私も色々ご相談に乗れると思います」
穏やかな笑みを浮かべたまま、なんでもないことのように受け止める金子はさすがだなと思いながら、邪魔にならないタイミングで男の子にお菓子を差し出す。
「よかったら、これどうぞ」
そう言って小さな袋に詰めたお菓子を渡すと、男の子は「ありがとう」と小さな声で言って受け取ってくれた。
袋をしばる青いリボンを見て嬉しそうに笑いながら、お母さんのとなりにちょこんと大人しく座る男の子。
可愛い子だな。
この子は、両親が離婚することを理解しているんだろうか。
そんなことを考えて、なんだか切なくなる。
「もしよかったら、お姉さんとあっちに行ってる?」
思わずそう声をかけると、男の子はきょとんとして私の顔を見上げた。
「小さなお客さんが来た時に渡せるように、こうやってお菓子を袋に詰めて用意してるんだけど、もしよかったらそのお手伝いしてもらえないかな?」
男の子は嬉しそうに勢いよく首を縦に振ったあと、隣に座る母親の顔を見る。
「お手伝いしてもらってもいいですか?」
男の子の代わりに私から母親にたずねると、「いいですけど……」と少しほっとしたように頷いた。
正直、子供の前でお金や離婚の話はし辛かったのかもしれない。
男の子の手を引いて応接セットを離れると、金子が視線だけで微かに笑いかけてきた。
助かった、ありがとう。とでも伝えたいんだろう。
爽やかな男の流し目のアイコンタクトが様になりすぎてて、なんだかちょっとムッとした。