私は、アナタ…になりたいです…。
翌朝も田所さんは、私の前を通り過ぎて行った。
今日は軽く目が合ったように思えたのに、すっ…と目線を逸らされてさっさと自分の部署へ上がってしまった。


キスができたらそれだけで十分だったのかも…と思った。
もしかしたら私のキスが余りにも下手過ぎて、嫌になったのかもしれないとも考えた。

数年ぶりに交わしたからうまく応じられていなかったのかもしれない。
目眩みたいなものを感じ過ぎて、フラフラしてたせいかもしれない…。


『下手くそでしたか?』というメールを送る訳にもいかない。

社内で気軽に話しかけもできない相手と付き合うことが、こんなにももどかしく感じるとは思わなかった。



浮かない気持ちで社食へ行った。

田所さんの姿はなくて、今日は外で食べているのか…と思った。


「一緒にお昼を食べよう」という約束は、いつ果たせばいいんだろう。
もしかするとこのまま自然消滅みたいになって、二度と一緒に食事できなくなるのではないか。

田所さんの言葉はその場しのぎの対応で、そんな気は最初から無かったのかも…。



(そんな事ない。「信じて欲しい」って言った……!)


勇気を出して彼に声をかけようと思った。
思い立ったら居ても立ってもいられず、見たこともない速いスピードでキーを叩き、彼にメールを送っていた。


『あの公園で食事しています。時間が合いそうなら来て下さい。咲知』


祈る様な気持ちで送信ボタンを押した。
そのまま社食に背中を向けて、一気に1階まで駆け下りた。

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