私は、アナタ…になりたいです…。
駅前の雑踏の中を通り過ぎながらそんなことばかりを考えてしまう。
私の気持ちなど知る由もない田所さんは、5分程歩いて脇の小道に入った。


古い民家が立ち並んだその通りには、殆ど人がいない。


「これから行く店はね、僕が大学時代にたまたま見つけた店なんだ」


袋小路になっている通りの一番奥にある店舗を指差し、「あそこだよ」と振り向いた。
彼が前を開けたくれたお陰で、店の外観がようやく見て取れる。


店の前には焦げ茶色の大きな壺が置いてあった。その中にはコスモスの花が溢れんばかりに差してある。
ガラス貼りの玄関の前には藍染の布で作られた暖簾が掲げてあり、それには白い文字が浮かび上がっていた。


「『かごめ』?『かごめ』っていうんですか?お店の名前…」


見間違いじゃないよね…と少し目を細めて見る私を見下ろして、田所さんは「そうだよ」と教えてくれた。


「通りの一番奥にあるけど、地図上から見るとこの界隈の中心にあるから『かごめ』と言うんだって」


小さい頃歌いながら遊ばなかった?と話す田所さんの顔を見ながら、遊びました…と言葉少なく答える。


保育園の頃、保母さん達に教えてもらった遊び。
手を繋いだ輪の中に一人が入って目を瞑り、後ろにいる人が誰かを言い当てる。

私はいつも輪の外にはなれなくて、中ばかりをやらされてた。
だから忘れようにも忘れられない。



何かの縁だろうか…と思いながら近づいた。

田所さんは手慣れた調子で、ガラス戸を開けて暖簾をくぐった。


< 49 / 147 >

この作品をシェア

pagetop