キミに出会うまで
それからのことは、忘れようとしても目に焼きついていて、離れない。


優樹の部屋は、リビングに続く廊下に角があるから、玄関からリビングを直接みることはできない。


お客さんかな、でもこんな夜に誰が来るんだろう。


そんなことを考えながら、廊下とリビングを隔てているドアをそっと開いた。


こちらに背を向けてソファーに座っている優樹の隣には、髪の長い女性がいて。


呆然と立ちつくす私と目が合うと、勝ち誇ったような笑みを浮かべて、



「優樹、私とやり直さない?」



優樹に抱きついた。



優樹は、



「まゆみ」



って、確かに、言った。




その瞬間、持っていたアイスを落としてしまい、あわててその場から逃げるように離れた。


靴を履いて玄関を飛び出し、走ってマンションから出た。


大通に出て、たまたま来たタクシーに乗った。


心臓がバクバクして、早鐘のようだった。


「お客さん、どちらまで?」


「え、あ、渋谷まで」


渋谷は、めったに行かないのに。


目の前の広告が、渋谷のお店だったから、つい口に出してしまった。




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