気になるパラドクス
「こ、これ!」

シートベルトを外している黒埼さんに、バックから取り出した箱を突きつけると、キョトンとされる。

「なに?」

「つ、つまらないものだけど、お菓子を持ってきたの」

「へぇ……」

そう言いながら、彼の表情が疑問符で埋め尽くされていく。

必死にその顔を黙って見ていたら、疑問が徐々に晴れてきて、理解に変わった瞬間に盛大に吹き出された。

「美紅。それは俺にじゃなくて、うちの親父に渡すもんだろ? 気を使ってくれるのはありがたいが、だから、そんな気の張るような親じゃないよ」

「だ、だって、これってご挨拶になるじゃない! ご挨拶にはまず手土産っていうじゃない! どうすればいいのか私はわからないけど、どうすればいいの?」

「俺に聞かれても……俺の場合は、たぶんスーツ着て、折菓子持って、三つ指ついて“娘さんを下さい”とか言うんじゃないのか?」

「じゃあ、私も言わないといけないのかな?」

私が“息子さんを下さい”って?
待って違う、黒埼さんはうちの婿に来るわけじゃないから、言う必要はないのかな?

ぐるぐる考えていたら、黒埼さんが急に頬に触れて真剣な顔をした。
暖かい手のひらに口を閉じて、じっと彼を見つめる。

「美紅……美紅、落ち着け。テンパり過ぎだから。いつもの冷静なお前はどこに行った?」

「こんなこと、はじめて過ぎてテンパるの当たり前だから!」

「……ありがとう。だけど、まず深呼吸しろ?」

深呼吸しろ? ゆっくり息を吸い込んで、それからゆっくり吐き出した。
それと同時に、箱を掲げていた手を下ろして、それから恥ずかしくなってくる。

「ご、ごめんね。ちょっと取り乱したみたい……」

「そうみたいだな。こんなに慌てるとは思ってもみなかったけど。なかなか可愛かった」

クスクス笑われながら、黒埼さんは車のドアを開けて外に出ると、助手席側に回ってきて、ドアを開けてくれる。
慌てて箱を持ち直すと、シートベルトを外してドアの前に立つ黒埼さんを見上げた。

当然のように手を差し出してくるから、その手のひらに手を乗せて、立ち上がらせてもらう。

……本当に、黒埼さんは私のことを“女の子”扱いしてくれるよね。

そう思いながら、手を引かれて玄関先に立つと、またゆっくりと深呼吸。

気合いを入れるために、空いている方の手で頬を叩くと、黒埼さんは小さく笑いながら引き戸を開けた。
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