気になるパラドクス
ガラガラという音と一緒に、黒埼さんの「ただいま」の声。
奥の方からパタパタと音がして、真理さんが笑顔で出て来た。

「お帰り。それからいらっしゃい」

スリッパを出しながら、真理さんが私を見る。

「村居さん可愛い。いつも髪を下ろしていればいいのに」

お店でしか会ったことのない真理さんと、こんなところで会うのは何だか奇妙な気もするけど、ニッコリそう言われてまた慌て始める。

ど、どうしよう?
こういう時はなんて言うのかな。ご挨拶すればいい?

思わず視線をさ迷わせると、繋がったままの手を、黒埼さんは黙って握り返してくれた。

……安心しろって言われてるみたいで何となく落ち着く。

気を取り直して、真理さんにペコリと頭を下げて微笑むと、本当に落ち着いた。

「ありがとうございます。今日は自宅にお邪魔します」

「上がって上がって。父さん待ってるから」

言われるままにお家に上がると、リビングらしき部屋に通されてまた硬直する。

「いらっしゃい」

人の良さそうな笑顔を見せているのはお父さんだろう。ちょっとたれ目な目元が黒埼さんとそっくり。
白髪混じりの髪がお洒落に乱れていて、白いワイシャツに灰色のセーターを合わせて黒いズボンを履いている。

ちらっと、ロングTシャツと黒いパーカーを合わせて、ダメージ有りジーンズの彼を見つめた。

大学教授と隣の兄ちゃんくらいに、服装の好みが違うのかな?

確かに私も、大工さんのような、または家具職人さん的なお父さんを想像していなかったけど、こうも黒埼さんから想像つかないお父さんが出てくると戸惑うかも。

どうしようかもじもじしていたら、お父さんが吹き出した。

「ええと村居さん。気楽に気楽に。お互い皆、初対面というわけでもないのだし」

初対面、だと思うのですが。
真理さんや黒埼さんはともかく、お父さんとは……。

そう考えて、この間、黒埼さんの工房に行った日の事を思い出した。

そうでした! 確かにお会いしていないけれどお会いしました! 大変な醜態を目撃されておりました!

真っ赤になった私を見て、楽しそうにするお父さんに黒埼さんが呆れた声を上げる。

「わざわざ思い出させなくてもいいだろうが。美紅、とりあえず座れ」

手を引かれてソファに座らされると、真理さんが目の前に緑茶を置いてくれた。
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