気になるパラドクス
なすがまま化粧を施され、わいわいと楽しそうに囲まれながら社員入口へ向かう。
途中、磯村くんに出会って「孫にも衣装」と言われたけど、隣に立っていた嫁にじっと見つめられて、彼は口を閉じてくれた。
「主任。黒埼さんは、今日、お迎えに来てくれてるんですよね?」
「うん」
「着飾った主任に見合う格好か、確かめさせていただきます」
え。意味不明だから。ちょっと……?
私を立ち止まらせて、何故か使命感に燃えた部下たちが社員入口の外を覗き込み……。
それからお互いに顔を見合わせた。
なんだろう? 何だかザワザワしてる?
「ちょっと、あなたたち。通行人の邪魔だから……」
言いながら近づいていって、それから社員入口の隙間から見えた人に目を丸くした。
いつもの黒埼さんは、ミリタリージャケット。インナーはロンTかパーカー。ダメージジーンズにスニーカーが標準装備。
洗いざらしの髪も無造作で、私はなかなか好みな粗っぽさ……だったのだけど。
どうした、黒埼さん。
今日の黒埼さんは、若干はねているのはご愛敬だけど、髪もちゃんと櫛を通してあるっぽい。けっこうカッチリ目のPコートは灰色で、中は黒に近い色合いのスーツじゃないか?
だけど立ち方はいかにも無造作で、肩に背負っているアレは花束か。
「さりげなく着てますけど、あれってブランドコートですよね」
「あの体格ですし、スーツは吊るしの量産じゃないですよね?」
部下たちがコソコソ話し合っている間に、しずしずと社員入口から離れると、誰かにぶつかってしゃがみこんだ。
「村居さん。大丈夫か?」
覗き込んできたのは時任さんで、彼の顔を見つめて両手で顔を隠す。
「え。どうしたのか? 何があった」
「何もないです~」
何もないけど、あんなにパリッとした黒埼さんにトキメキ隠せなくて恥ずかしいです……とは言えない。
やっぱりスーツ姿が似合うじゃないか! 似合うどころか、甘すぎて、想像通りホストに見えるじゃないか!
「どうしていつも通りの格好してくれてないのよー」
「はい? 一体、何を言って……」
ざわつく社員入口でしゃがみ込む私に気がついた部下が、慌てて近づいてきた。
途中、磯村くんに出会って「孫にも衣装」と言われたけど、隣に立っていた嫁にじっと見つめられて、彼は口を閉じてくれた。
「主任。黒埼さんは、今日、お迎えに来てくれてるんですよね?」
「うん」
「着飾った主任に見合う格好か、確かめさせていただきます」
え。意味不明だから。ちょっと……?
私を立ち止まらせて、何故か使命感に燃えた部下たちが社員入口の外を覗き込み……。
それからお互いに顔を見合わせた。
なんだろう? 何だかザワザワしてる?
「ちょっと、あなたたち。通行人の邪魔だから……」
言いながら近づいていって、それから社員入口の隙間から見えた人に目を丸くした。
いつもの黒埼さんは、ミリタリージャケット。インナーはロンTかパーカー。ダメージジーンズにスニーカーが標準装備。
洗いざらしの髪も無造作で、私はなかなか好みな粗っぽさ……だったのだけど。
どうした、黒埼さん。
今日の黒埼さんは、若干はねているのはご愛敬だけど、髪もちゃんと櫛を通してあるっぽい。けっこうカッチリ目のPコートは灰色で、中は黒に近い色合いのスーツじゃないか?
だけど立ち方はいかにも無造作で、肩に背負っているアレは花束か。
「さりげなく着てますけど、あれってブランドコートですよね」
「あの体格ですし、スーツは吊るしの量産じゃないですよね?」
部下たちがコソコソ話し合っている間に、しずしずと社員入口から離れると、誰かにぶつかってしゃがみこんだ。
「村居さん。大丈夫か?」
覗き込んできたのは時任さんで、彼の顔を見つめて両手で顔を隠す。
「え。どうしたのか? 何があった」
「何もないです~」
何もないけど、あんなにパリッとした黒埼さんにトキメキ隠せなくて恥ずかしいです……とは言えない。
やっぱりスーツ姿が似合うじゃないか! 似合うどころか、甘すぎて、想像通りホストに見えるじゃないか!
「どうしていつも通りの格好してくれてないのよー」
「はい? 一体、何を言って……」
ざわつく社員入口でしゃがみ込む私に気がついた部下が、慌てて近づいてきた。