気になるパラドクス
***



そして、誰もいなくなったフロアでカタカタとキーボードを打ちつつ残業中。

ああ、またあの子ミスってるなー。
そんな事を思いながら、最終確認。

しっかし、うちの営業部は本当に残業しないよね。
それだけメリハリあるっちゃあるけどさ?

誰もいないフロアで、しかも経理が節電節電うるさいから照明もほとんど消して、薄暗いなかでパソコンの画面見ていると……。

何か出てきそうで怖いよー。

早く終わらせたいよー。

終わらせてさっさと帰ろう。
決心してプリント印刷かけたら、プリンターの音も半端ないな……。

その音を聞きながら終わるのを待っていたら、後ろのドアが突然開いた。

「ああ。良かった」

そう言って入ってきたのは黒埼さんで……。

「……良かった?」

「暗いから居ないのかと思った。差し入れに来て、誰もいなかったら寂しいだろー?」

そうだね。それはそれで寂しいけど、そもそも残業している人がいなかったらフロアの鍵もしまっていますよ。

……何て言うか、この人は遠慮なく入ってくるんだな。

近づいてきた巨人を眺め、漂ってきたいいにおいに眉を上げる。

「焼き鳥。食べられる?」

白いビニール袋を持ち上げて、黒埼さんは微笑んだ。

「……飲みに行っていたんじゃ?」

確かに今日、磯村くん経由で誘われていた気がするんだけど。

「いやぁ……村居さんに無理難題言ったんだろうな、と思って飲み会を持ちかけたのに。結局あんた来ないんじゃ意味ないし」

近くの椅子を二脚持ってきて、ひとつの椅子に座ると、空いている椅子にビニール袋を置く。

「仕事中にアルコールは飲まないだろうと思ったから、味気なくお茶だけど。無糖紅茶と緑茶と、どっちがいい?」

ペットボトルを差し出されて困惑する。

「気に……なさらなくてもよかったんですが」

「気になさりたいんだから、仕方ないと思ってください」

切り返されて苦笑した。

磯村くーん。脈なしって伝えてくれるんじゃなかったのー?

「ところで、そのものズバリと村居さん止めておけ発言を、ここの営業さんに言われたんだけど。村居さんは彼氏持ち?」

目を見開いて凝視すると、今度は黒埼さんに苦笑された。
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