気になるパラドクス
「主任、せっかく黒埼さんがおめかしして待っているんですから、行かないと!」

「やだー。あんな黒埼さん見慣れなくて恥ずかしいー」

「何を駄々っ子みたいな事を言ってるんですか!」

だって恥ずかしいよー。いかにもデートですって雰囲気過ぎて、どうしろって言うのよー?

「ははぁ……。今日は表に彼氏が迎えに来てるんだ」

時任さんの低い声にちらっとだけ顔を上げると、困ったような彼の苦笑と目が合った。

「そっかぁ。村居さんて、本当はそういうタイプの人だったか……」

「はい?」

時任さんは片手を上げて、何も言わずに社員入口を出て行く。

そういうタイプって、どういう?
考えていたら、ひょっこり黒埼さんが社員入口から顔を出した。

「あ……」

バッチリ視線が合って、黒埼さんの表情が途端に心配そうになる。

それからスタスタと無言で近づいてきて……私の目の前にしゃがみこんだ。

「……どうした。具合悪いか?」

本当に心配そうに言われて、どうしようか迷う。

「……具合は悪くない」

「なんかいきなり“時任さん”に、お前が大変な事になってるって聞いたんだけど?」

大変な事と言うか、大変なんだけど。それを当の本人目の前にして、どうして伝えられると言うのよ?

「大変ですよねー。見慣れない黒埼さんに恥ずかしがっているんですから」

部下のひと言に真っ赤になると、黒埼さんはキョトンと彼女を見た。

「恥ずかしい……?」

「黒埼さんの格好が見慣れないんじゃないですか? そういうのって普通、彼氏の前で盛大に見せる事だと思うんですけれど……」

その場にいた私以外の皆が小さく吹き出す。そして黒埼さんは花束を彼女に渡すと、いきなり私を抱えあげた。

「あ、歩けるから、黒埼さん!」

またまた唐突なお姫様抱っこに、あわてふためく。

「知ってる。でも放っておくと、歩きだすまで時間かかるのも知ってる」

ポカンとしている部下たちの視線を全く意に介さないで歩く黒埼さんは、笑いながらそう言って、入口前に立っていた時任さんを見た。

でも、それは数秒の話で、時任さんは笑いながらドアを開けてくれる。

「御用納が大変だね。村居さん」

私もそう思います~。

両手で顔を隠したのと、背後で黄色い悲鳴が上がったのは同時だったと思う。

冷たい風が吹いて、外に出たことだけはわかった。
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