気になるパラドクス
「お前と話してた男がいたろ?」

名前は覚えるつもりがなかったから忘れちゃったけど、確かに話をしていた人はいた。

「あれ。腐れ縁の幼馴染み」

何気なく頭をポンポンされて、目が点になる。

それから、ボンと爆発的に身体中が熱くなった。

それを眺めて、黒埼さんが困惑する。

「……なんでこれで赤くなるんだ?」

だって、上から頭をポンポンなんて!

子供の頃以来だし!

誰もそんなことしてくれたことなかったし!

聞かないでよ、そんなこと!

「喜んでるみたいだからいいか」

あっさりスルーしてくれて、社食に向かう。

「何かおすすめあるか?」

社食のガラスケースの前で立ち止まる黒埼さんに、腕を組んで首を傾げた。

「かなり食べるならA定食がガッツリ系ですし、お魚系ならB定食です。味はその日によって若干違うし、私は唐揚げ定食が好きです」

「じゃ、それにするか。先に座ってて」

「わかりました」

コンビニ袋をカサカサさせながら空いている席を探していると、社食の人たちの視線が食券を買っている人の列に向かう。

肩越しに振り向くと、誰よりも背が高い黒埼さんが悪目立ちしていて、ちょっと苦笑した。

やっぱりあれだけ背が高いと目立つよね。

私だって男子に紛れている時にはあまり目立たないけど、女子に紛れている時は目立つし。

空いている席を見つけて座ると、定食を受けとる列に並んだ黒埼さんが微かに社食を見回し、私を見つけると軽く頷いて……それからチラッと後ろを振り返った。

何かあったのかな?

だけど、定食を受けとるとスタスタと近づいてきた。

「先に食っていてもよかったのに」

座りながらそう言うと、ジャケットを椅子にかけて割り箸を割った。

「ひとつ聞いていいか?」

「はい?」

サンドイッチの包装を開けながら、どこか難しい表情の彼を見る。

「目元にホクロのある、黒縁眼鏡の男に覚えはあるか?」

……それは、あるわねぇ。
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