気になるパラドクス
とにかく、こんなところで原くんと黒埼さんが睨み合っていても仕方がないし、どんな噂もごめん被る。

トントンと原くんの肩を叩いて、彼が振り返ると愛想笑いを浮かべた。

「私が背が高いって、事実だから。その事はもういいんだけど……原くんと付き合うつもりもないです」

「どうして? こいつと付き合っているわけでもないよな?」

私が黒埼さんと付き合っていないから、原くんと付き合うと言う図式にならないでしょう。

……もしかして単に、私が男の人の“常識”に疎い?

私としては、もう好きでもない人と付き合うつもりはないだけなんだけど。

そう……もう、原くんは好きじゃない。そんなことに今さら気がついて眉をひそめる。

とっくのとうに諦めて、消化してしまっていた。

初対面の人には、まだやっぱり背が高いって驚かれるけど、そのうちだいたいの人がそれにも慣れていく。
慣れないのは……たぶん、いつもふたりで並ぶ人なんだろう。

原くんが気にすると、私も自分と原くんの身長を気にするし……。

「村居さんて、いつもチビな男と付き合っていたわけ?」

掛けられたのんきな声に、考え事が中断されて瞬きをする。

私はキョトンとしたけど、原くんはそうならなかったみたいで、キッと黒埼さんを睨みつけた。

「チビ……?」

「チビだろ。伸びたもんは縮みようがないんだから、単にあんたの身長が低いってだけの事で」

「俺だって、この年齢で伸びるか」

「努力が足りねーんだよ。だいたい身長が高いってのは別に悪いことじゃない。それを相手に対して悪いように感じさせたのは……あんた自身に思いやりがないって事だ」

笑顔で言いながら、黒埼さんは近寄ってきて私の隣に立ち、涼しい顔で原くんを振り返る。

「まぁ、あんたならそうするか? 見栄っ張りそうだもんな?」

原くんの顔が、どんどん険悪になっていく。

ちょ……っ。ちょっと、ちょっと。
黒埼さん、挑発的過ぎるから!

「……クリスマスに彼女作ろうとするような自分勝手な男は、まわりの視線ばかり気になるんだろ?」

「こ……っ」

彼が顔を真っ赤にして、叫ぶように言った途端、スッと黒埼さんが私の前に立って、今度は視界が遮られる。

もしかして、殴り合いとかになっちゃう?

黒埼さんのジャケットを思わず掴んで、ギュッと目を閉じた。
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