気になるパラドクス
「すみません。確認させてくださいますか?」
手を出すと、バサリと書類を突きつけられてパラパラと確認する。
ちょうど二ページ目に、見覚えのある筆跡の手書き付箋を見つけた。
「承った時に午前中と承っているようですね。こちらの書類を先方にお持ちするのは五日ですか? それとも六日ですか?」
「六日だ」
何を言ってるんだ、とでも言い出しそうな増岡さんに微笑みを向ける。
「でしたらカレンダーの確認をなさってください。本日は五日です。その上で、本日中にとおっしゃるのでしたら至急作成しますので」
きっかりと、六日午前中とメモ書きされた付箋を彼に見せ、そのまま書類を後輩に渡すとデスクに戻らせる。
「よかったですね。先方とお約束の一日前に突撃するような失礼なことにならずに済みまして」
ニッコリと振り返ると、増岡さんは顔を赤くして営業部を出ていった。
営業事務なめんなよ、おっさん。
思わずイーっと歯を見せると、まわりからクスクス笑われた。
「主任、男前です」
「男前やめて、私は女だから」
椅子に座って、やれやれと肩を竦めると、スッとデスクに置かれたチョコレートに目を丸くする。
顔を上げると、時任さんが苦笑しつつ立っていた。
先月は磯村くんに負けちゃったけど、我が社のトップセールスナンバーワン常連の時任龍之介さん。
いつ見てもスラリとした立ち姿は美しく、営業部でも私より背が高い貴重な人。
キリッとした目付きは鋭いけど、眼鏡萌え~の女子社員の憧れの的でもある37歳。ちなみに今は独身。
だいたい海外事業部とタッグを組んでいるし、たまにしか本社に帰ってこないから、営業部に顔を出すことも珍しい。
「くれるんですか?」
「チョコレートは落ち着く作用もあるから。どうぞ?」
「ありがとうございます。それで、頼み事は何ですか?」
「……いや。頼み事はないけれど、増岡に怒鳴られていたみたいだから」
怒鳴られていたのはうちの後輩です。
でも、チョコレートはもらっちゃおう。
いそいそチョコレートを引き出しにしまっていると、小さく吹き出された。
「……なんですか?」
「や。村居さんの引き出しって、いつもお菓子だらけだよね」
「頭使うとき、ちょっと食べます」
「……それで、新しい彼氏が出来たんだって?」
あんぐりと口を開け、苦笑しっぱなしの時任さんを眺めた。
時任さんて、真面目だと思ってた。
真面目で、仕事中にこんな話を振ってくるような人だとは思っても……。
「原と別れたときに、声かければよかったかな。少し残念」
そう言って、軽く手を振ると離れていった。
手を出すと、バサリと書類を突きつけられてパラパラと確認する。
ちょうど二ページ目に、見覚えのある筆跡の手書き付箋を見つけた。
「承った時に午前中と承っているようですね。こちらの書類を先方にお持ちするのは五日ですか? それとも六日ですか?」
「六日だ」
何を言ってるんだ、とでも言い出しそうな増岡さんに微笑みを向ける。
「でしたらカレンダーの確認をなさってください。本日は五日です。その上で、本日中にとおっしゃるのでしたら至急作成しますので」
きっかりと、六日午前中とメモ書きされた付箋を彼に見せ、そのまま書類を後輩に渡すとデスクに戻らせる。
「よかったですね。先方とお約束の一日前に突撃するような失礼なことにならずに済みまして」
ニッコリと振り返ると、増岡さんは顔を赤くして営業部を出ていった。
営業事務なめんなよ、おっさん。
思わずイーっと歯を見せると、まわりからクスクス笑われた。
「主任、男前です」
「男前やめて、私は女だから」
椅子に座って、やれやれと肩を竦めると、スッとデスクに置かれたチョコレートに目を丸くする。
顔を上げると、時任さんが苦笑しつつ立っていた。
先月は磯村くんに負けちゃったけど、我が社のトップセールスナンバーワン常連の時任龍之介さん。
いつ見てもスラリとした立ち姿は美しく、営業部でも私より背が高い貴重な人。
キリッとした目付きは鋭いけど、眼鏡萌え~の女子社員の憧れの的でもある37歳。ちなみに今は独身。
だいたい海外事業部とタッグを組んでいるし、たまにしか本社に帰ってこないから、営業部に顔を出すことも珍しい。
「くれるんですか?」
「チョコレートは落ち着く作用もあるから。どうぞ?」
「ありがとうございます。それで、頼み事は何ですか?」
「……いや。頼み事はないけれど、増岡に怒鳴られていたみたいだから」
怒鳴られていたのはうちの後輩です。
でも、チョコレートはもらっちゃおう。
いそいそチョコレートを引き出しにしまっていると、小さく吹き出された。
「……なんですか?」
「や。村居さんの引き出しって、いつもお菓子だらけだよね」
「頭使うとき、ちょっと食べます」
「……それで、新しい彼氏が出来たんだって?」
あんぐりと口を開け、苦笑しっぱなしの時任さんを眺めた。
時任さんて、真面目だと思ってた。
真面目で、仕事中にこんな話を振ってくるような人だとは思っても……。
「原と別れたときに、声かければよかったかな。少し残念」
そう言って、軽く手を振ると離れていった。