気になるパラドクス
「夕飯作り手伝うか?」

唐突に話題が変わって首を振る。

「これくらいは簡単だし。何か飲む?」

確か、緑茶のペットボトルがあったはずだから……。
そう思いながら冷蔵庫を開け、手を伸ばすと、キッチンの向こうからあっけらかんとした返事が返ってきた。

「いいよ、構わなくて。俺は夕飯より美紅が食べたいけど」

「私は食べ物じゃー……」

……では、ない。今、何をあっさり言われた?

冷蔵庫をパタンと閉じて、ジロリとリビングを振り向くと、黒埼さんは椅子に座って足を組みながらニッコリと微笑んでいる。

「襲わないって約束しなかった?」

「した。だから、今日は襲うつもりはないよ。乙女は段階踏まないと納得しないだろうし」

今日は襲うつもりはないって事は、いつか襲われるってことか。
まぁ、そうだろうけど、ソレよりも……。

「……乙女って、私?」

「うん。美紅の思考がかなり乙女なのはわかってる」

……あらー。嬉しいけど。

「……すこーしだけ、からかわれてる気がするのは気のせい?」

「間違いなくからかってる。でも、俺もそういう面で言えば乙女だろ?」

……あなたみたいな大きな人が乙女だと言われても困るぞー?
でも、好みは乙女なのかな。この部屋に一歩も引かなかった男性は初めてだ。

軽く息をついて気を取り直し、改めて冷蔵庫からお茶のペットボトルをだしてグラスに注ぐ。それをテーブルに置くと、少し苦笑した。

「……ゆっくりしていって」

「泊まってもいいってこと?」

「それはダメに決まってるでしょ。私は明日早いし。泊まりに来るなら金曜か土曜にして」

黒埼さんが目を見開いて、まじまじと私を眺めた。

「金曜か土曜なら泊まってもいいのか?」

おかしな事は言っていないと思うんだけど……?

「お前って、今までどーいう奴らと付き合ってきたんだよ」

呆れたように言われても、今までかぁ……今までねぇ?

考えながら、顔をしかめた。
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