気になるパラドクス
そっと顔を覗かせると、不貞腐れたような表情でリモコンをいじっているのが見える。

「……ごめんね?」

「謝るな。美紅が謝ることじゃない」

そう言われても、ちょっと困るから頭をかいた。いまいち怒っている理由がわからない。

付き合っているなら、お泊まりも普通のことじゃない?

子供のお付き合いってわけでもないんだから、いろんなものの延長線上にはエッチも含まれると思うんだ。

黒埼さんだって“抱き潰す”とか、飲み会で言ったくらいだし。

とりあえず冷蔵庫にしまうものはしまっていると、カタンと小さな音がして、それから立ち上がった黒埼さんが見えた。

「寝室見てもいいか?」

「だめ」

「お前の線引きがわからん」

うーん。線引きって言うか、何て言うか……さ?

「土日ってまだ数日後だから、それくらいには心構えが出来るよ。さすがに付き合ってすぐにどうこうするのは、私でもちょっと無理」

「俺だって無理だよ。バカだなお前も」

あっさり人のことバカにしないでよ。

「じゃあ寝室見て、どうするのよ?」

「興味半分、仕事半分。前に女の部屋に入ったのって、20代の終わり頃の話だから」

……え。ええええ?

「……そんなに驚いた顔することないだろ。俺は実は奥手なんだ」

どこがだよ。全く信憑性がないよ?

「いいなーと思う女がいても、話しかけることも出来なかったし。そのうち来なくなっちゃったからなー」

「今の女の前で、昔の女の話をするのはデリカシーないわよ」

冷たい視線で見返すと、黒埼さんが皮肉げに笑いながら近づいてくる。

無言で彼を見上げるけど、構わずどんどん近づいてくるから、そのままどんどん私は下がる。

「く、黒埼さん?」

「だから……」

だから?

「次にいいなと思う女がいたら、絶対に逃がさない」

顔の横に手を置かれ、見上げた私と見下ろす彼の距離はほんの数センチ。

目を瞑ると、ゆっくりと唇が重なった。

黒埼さんの唇は驚くぐらい優しくて、でも怖いくらいに貪欲だった。

あっという間に深まっていくキスに少しだけ戸惑うと、笑うような気配がして、それから抱きしめられる。
< 66 / 133 >

この作品をシェア

pagetop