気になるパラドクス
始まったのと同じように、ゆっくりと離れていく唇。

だけど、抱きしめられた腕は離される事はなく、頭の上に顎を乗せられた。

「こんな時だけ、そんな反応されるとまいるなー……」

笑いながら髪に触れられても困る。

「いや、だって……」

確かにキスの経験はあるけど。

エッチの時以外でこんな感じに熱烈なのは……あまり経験無いかな。

ちょっと……いや、かなり嬉しいかもしれない。

確かに今までも一応は“女”扱いされていたわけだけど、私の趣味に引かれるような経験しか……してなかったから。

黒埼さんの反応は、なんと言うかこそばゆい。

そんな事を考えていたら……。

「……あ」

頭上で、困ったような声が聞こえてきていきなり身体を離された。

「黒埼さ……?」

見上げた顔が何故か、困ったように照れていて赤い。

「どうかした?」

「聞くな。とりあえず腹が減った!」

……男の人のいろいろな事情が出てきたかな。

でも、それを突っ込むのは、女としてはダメだと思うから、今は聞き流すことにするよ。

「……作るから、座ってて」

何となく俯き加減に離れていく彼を見送り、コートを脱ぐ。

普段なら部屋着に着替えるところだけど、さすがに堂々と着替えるわけにいかないから、脱いだコートを空いている椅子にかけて、ブラウスの袖を捲りながらまたキッチンに戻った。

「……にしても、お前はいつも自炊してんのか?」

振り返ると、わざわざ椅子を逆にして、今度は背もたれに頬杖をつきながら黒埼さんは首を傾げる。

「そこそこは? でも週の半分はコンビニ弁当。いきなりなんで?」

「外で飯を食うって選択肢が出てこなかったから」

「うちに来たがっていたみたいだから」

卵のパックを取り出したら、ポカンとしている彼に気がついた。
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