気になるパラドクス
とにかく、きっちり定時で仕事を終わらせると、ロッカールームに急いで入る。

着替えをしていたら、楽しそうに入ってきた一団様が、ロッカーを隔てた向こう側で騒ぎ始めた。

バタンバタンとロッカーを開閉する音と、大きな声で笑う声。

さすがに騒ぎすぎなんじゃないかな?
確か、あっちの列は営業部三課と四課の人たちのスペースだけど、注意するべきか……。

「そう言えば、一課の村居主任て結婚するのかな?」

聞こえてきた名前に、つい動きを止めてしまう。

「あー。あの背の高い人? 原さんとよりを戻したんだっけ?」

「違うよー。原さんがより戻そうとして、言い寄ったらどこかの社長さんと修羅場になったんでしょ?」

「シャッチョーとかウケる。まぁ、でも村居主任って40歳だっけ?」

ええと。一応、まだ35歳です。

「まぁ、どっかのおじさんとまとまってくれればいいけど。時任さんともなんか噂あるよね?」

「なーに? おばさんがモテ期の時代? って言うか、村居主任の背の高さなら男並みじゃん。オカマかって感じじゃない?」

「オカマわかる~。だいたいの男性社員くらいか見下ろすか、どっちかだよねー? てか、つり目で顔も怖いしメイクも下手だし」

私、メイク下手なのか。

「オカマと付き合いたいって男って、どうなんだろうねー?」

「ホモじゃないの? キモーイ」

ケタケタと笑う彼女たちの笑い声を聞きながら、なんだかムカムカしてきたかも。私だけならともかくさ、黒埼さんの事まで言われる筋合いないよ?

着替えは終わっているから、どうしようか考えて、バックを持つと、ロッカーを大きな音を立てさせて閉めた。

閉めた瞬間に、落ちる沈黙。

沈黙と同時に、ロッカールームのドアが開いて、一課の子達が入って来る。

「あ。村居さんお疲れ様です」

「……お疲れ様」

呟くように返事をしたら、ロッカーの向こうでざわめきが起こったけど、これ以上は居たたまれなくなった。

「どうかしましたか?」

「ううん。何でもない。ちょっと雑音がうるさくて」

後輩たちが顔を見合わせている間に、ロッカールームを後にした。

……ムカつく。

ムカつくけど、何に一番ムカつくかと言われれば、言い返せない自分に一番ムカつく。

イライラしながらもスケッチブックの住所に向かって、それから何も知らずに出てきた黒埼さんの顔を見るなり抱きついた。
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