ナニカ 〜生んで、逃げて、殺される物語〜
その声には、怒りが込められていなかった。
私の中途半端な説明に、ただ困惑しているといった感じがした。
恐る恐る目を開けて、ガードしている腕の隙間から敬太を見る。
敬太の涙は止まっていても、目は赤かった。
疲れたような顔をして、敬太はじっと私と視線を合わせている。
「霞、ゆっくりでいいから、最初から順を追って説明してくれ。
それだけじゃ、何が何だか分かんねぇよ……」
敬太は「怒らないから」と付け足した。
その言葉で、幾らか緊張が解け、私は両腕を下ろして小さく頷いた。
ドアの横のコンクリートの壁に背を持たれて、私たちは並んで座った。
例えばこれがお昼休みのお弁当タイムなら、恋の甘さを感じて、どんなにか嬉しいことだろう。
でも今はそうじゃない。
苦しくて、悲しくて、少し怖かった。
それでも私はポツリポツリと、全てを敬太に話した。
ナニカは私のついた嘘から生まれた。
本当は女子トイレで見ていない。
あれは、敬太に構って欲しくてついた、小さな嘘だった。
それなのに、桜井先生が殺されて、飯塚先輩が殺されて、神社でナニカをこの目で見てしまった。