ナニカ 〜生んで、逃げて、殺される物語〜
私は私の企みの中、敬太も敬太の企みの中で、お互いに舌を絡ませてから、唇を離した。
「霞、始めよう。
ナニカに願ってくれ。俺を殺してほしいと」
私は頷いて、胸の前で指を組み合わせる。
そっと目を閉じて心に願うのは、全く逆のこと。
敬太が死ぬのは嫌。絶対に嫌。
ナニカは二度と現れないでほしい……そう願っていた。
揺れるロウソクの炎の前にふたり並んで立ち、祈りをこめる。
雨の音が聞こえる以外は、何も聞こえない静かな時間が30秒ほど流れていた。
もういいかな?
目を開けてから、こう言うつもり。
「あれ? 何も起きないね」って。
敬太を消してほしいと願ったフリをした。
それでナニカが現れなかったんだから、仕方ない。
ナニカと戦うことはできず、当然殺されることもなく、私たちはあきらめて平和に帰るしかないよね。
ところが……。
ブクブクッ、ボコボコボコ……。
目を開けた途端に聞こえてきたのは、ナニカが発するあの音だった。