ナニカ 〜生んで、逃げて、殺される物語〜
確かに敬太の着ている白いワイシャツにも制服のズボンにも、私をかばってくれる手にも汚れは付いていなかった。
敬太がやったんじゃないと分かって、私も真斗もいくらかホッとする。
でも、恐怖は消えない。
人間ひとりが目の前で死んでいる……。
それも、数時間前に学校で話をしていた先輩が……。
「敬太、私怖いよ……。
何があったのかな……誰に殺されたのかな……」
「決まってんだろ。ナニカだよ。
また、ナニカが出やがったんだよ」
敬太は犯人がナニカだと断言した。
桜井先生の時と同じように、飯塚先輩もナニカの存在を否定するような言葉を言ったから、ナニカを怒らせたんだって。
「飯塚先輩にはムカついたけどよ、ひでーよな……チクショー」
敬太には言えないけど、犯人はナニカのはずがないんだよ。
ナニカなんていない。
だって、私のついたウソなんだから。
敬太の腕の中で口には出さずに心で呟いた、その時……。
ギギギギィと、前方から軋んだ音が聞こえてきた。