十八歳の花嫁
駅近くのマンションから、車で十分ほどの場所に藤臣は引っ越していた。
そこは海に近いのか潮の香りがする。建物はどっしりとしたレンガ造りの洋風平屋建て。それもかなり年季が入っているように見えた。
「見た目は渋いが中はそこそこ快適だ。さあ、どうぞ」
車から降り、立ち止まったままの愛実に藤臣は声をかける。
「ヨーロッパの家みたいでステキ。……でも、重要文化財に指定されたりはしないんですか?」
「あと五十年もこのままなら、指定されるかもしれないな」
笑いながら家に入る藤臣のあとを、愛実は追いかけた。
昔は土足で出入りしていたようだ。
今は段差をつけ、玄関にも土間が設けてある。
中に入ると意外に寒くない。セントラルヒーティングでいつでも暖かいのだ、と藤臣は教えてくれた。
リビングはローソファが置かれ、比較的かわいらしい色でマットやカーテンも揃えてある。
十八歳の花嫁が来ると聞き、会社の女子社員たちで用意してくれたと話す。
「あそこは単身者用のマンションだからね。奥さんがこっちに来るなら狭いだろう、ってみんなに言われて……。社長宅ってことで、ここを用意してもらったんだ」
社員たちは当初、親会社から押しつけられた形の社長に反発していたという。
会社は従業員が数十人程度の小さな水産物製造加工業。前社長が急死し、赤字経営で継ぐ人間がおらず、倒産を避けるため美馬グループの子会社によって吸収合併された会社だった。
地味に需要はあるものの、飛躍的に業績を伸ばせる業種ではない。
藤臣は昨年の夏まで、美馬グループ本社専務と系列デパートの社長を兼任していた。
これまで、海外からの輸入や小売り部門、それもアパレル中心に手がけてきた彼にとって、水産物などまったくの畑違い。
こちらに来てすぐのころは、右も左もわからず……。
「従順なふりをして頭を下げるのは簡単だ。でも、うわべだけ取り繕っても、肝心なときにはみんなが離れていくことを知ったから。それに、君の信頼に応えたかった」
愛実のため、そして何より、藤臣自身が生まれ変わりたかったという。
地道な努力で社員たちの信頼を得て、今では港や市場での水揚げ作業も手伝っているらしい。
「酒は身体を温める程度にしか飲まないし、タバコもやめた」
そう言って、藤臣は笑った。