優しい胸に抱かれて
『別な飲み物にしますか?』
長島さんにドリンクのメニューを見せ話しかけた。前川さんは『俺がいたら気遣うだろ』と、この会を遠慮した。その前川さんだったら、そろそろハイボールを注文する時間だった。無愛想な長島さんは日本酒のイメージだった。
『そうだな、田酒でも貰おうか? 気が利くな柏木は』
『…そんなこと初めて言われました』
笑い飛ばして行こうとすると、一課の施工の金山さんと畑山さんコンビが私を呼び止める。
『柏木、いつもの』
『はい』
店員さんに新しいピッチャーと、田酒。金山さんと畑山さん所望の焼酎のボトルに氷とお茶を頼む。注文したものが一通り渡ったのを確認して、しばらくは呼ばれないと確信した。
そうして、しばし休息として空いている場所に座る。それが、彼の隣でも。もうすでに、そんなことはどうだってよくなっていた。時折、肩同士がぶつかっても目を合わすことはなかった。
新人二人が挨拶兼ねてお酌して回っていた。日下さんと、[しきたり]をとっくの前に放置した平っち、彼との間で繰り広げられる会話が聞こえてくる。私は隣にいた和泉さん、当時の課長代理と世間話を交わしていた。周囲は騒がしいのに、しっかりと耳に届くのは不思議な感じがしていた。