彼が嘘をついた
「あぁ、佐久間くんの噂ね。
彼、10月には本社に戻って来て、取締役になるらしいよ」

「えっ…?」

「まぁ社長の息子だし、ここを継ぐのは間違いないけど…。
身も固めたし、彼の子供に自覚を持たせるためにも、早くこっちに呼び戻すんじゃないか…って。
まだ噂の段階だけどね」

…私、身内なのに、そんな話が出ているなんて、全く知らなかった…
それとも、"さすが美鈴先輩"と思うべきなのだろうか…

「遥、大丈夫?
準備出来たら行くよ!」
考え込んでしまった私に、美鈴先輩が声をかけて歩き出す。
私もすぐに、美鈴先輩を追いかけた。



トントン。
「失礼いたします」
会議室をノックして先輩と一緒に入って行く。

そして、会長·社長·専務…と、役職順にお茶を出して行く。
その時に気付く。
まだ"副工場長"と言う立場のはずの兄が、上席にいることを。

やはり、美鈴先輩が言っていたことは、本当なのだろうか?

「失礼いたします」
また美鈴先輩と共に一礼して、会議室を出る。

給湯室に戻ると、
「佐久間くん、役員に近い席にいたね。
やっぱり噂は本当みたいだね」
総務部に持って行くコーヒーを煎れながら、美鈴先輩が嬉しそうに言う。

「…だけど、どこに入るんですか?
空いてる役職なんて、ないですよね?」
…私はまだ、半信半疑だ。





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