名前で呼べよ。~幼なじみに恋をして~
「やだ」


せめてものお願いはあっさり切って捨てられた。


こんなときばっかり返事をするのはひどいよ。


それでもわたしが怒れないのは、そうちゃんが焦っていると分かるからだ。


普段のそうちゃんはこんなことしないって、知っているからだ。


肩が上がったそうちゃんの背中が、わたしの怒りをやわらげる。


わたしを振り返らない歩き方に、何も言えなくなる。


そうちゃんの「ただいま」に合わせた「こんばんは」 は、なんとなく控えめになった。


おばさんが「おかえりい」と言ってくれたのに、顔を見せたりゆっくり挨拶したりする間もなく、階段を上る。


間取りは変わっていないらしかった。


思った通りの部屋を開けて、わたしが入ってから扉をぴっちり閉めたそうちゃんが、どかりと床に荷物と腰を下ろす。


手を繋いだままのそうちゃんの勢いにつられて、わたしも向かい合って座った。


「そうちゃん……?」


なんか、そうちゃんが変だ。


手をつないだ時点でいつもと違うし、わたしを部屋に連れてきたのもいつもと違うし、おばさんにろくに挨拶させてくれないのもおかしいけど、そうちゃんが、何かを抑えた無表情なのが、一番変だ。


「……みい」


ぎゅう、と強く握られた手が痛い。


やっと顔を上げたそうちゃんは、ひどく泣きそうだった。
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