雪見月
「手を」


小さなその手に俺の手を重ねて、両手で引っ張ってもらう。


とても温かい手だった。


……この短時間でどんだけ人恋しくなってんだ、俺。


なんて、思わず突っ込みたくなるくらいに優しくて、伝わる鼓動と体温に安堵する。


左足がずるりと滑りそうになるが、何とか堪えて力を込めた。


「立て、た」


力が入らない左足をかばいながら踏みしめた靴の裏に、確かな感触――固いアスファルト。


何気なく過ごす毎日では気に留めない些細な実感が、無性に嬉しかった。


やった、立てた。

立てた……!


これでどうにか帰る目処は付いた。


歩くのはもちろん辛いだろうが、とにかくやっと帰れる。


帰れる。


歓喜はじわじわとやって来た。


そろそろ冷えて限界が来そうだったから、さっさと帰って熱い風呂に入って、一刻も早くぬくぬくと寝たい。


安心したら笑みが漏れた俺を認め。


「良かった」


ゆるりと笑った彼女が、安堵して、目を細めた。
< 11 / 75 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop