雪見月
俺みたいな阿呆な奴は、本来、滅多にいない。


初めの頃にありがちな対応――例えば、気を遣いすぎてわざとらしいなどだ――が何もなかったところや、


対応が一貫して手慣れていたところからも、彼女が声をかけ手伝ってきた回数の多さが窺える。


そんなことを考えながらバイト先に連絡し、シフトを変更してもらった。


寄りかかった漆喰の壁の凹凸に首の後ろをちくちく刺されてこそばゆい。


さっきより視線は感じるのに、雑踏は静かに息を潜めている。


知らず知らずのうちに不快感は消えていた。


……彼女の、おかげだろうか。


助けてくれた優しい人に思いを馳せて、雑踏の中、俺は彼女の帰りを待っていた。
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