雪見月
しばらくして、息を切らしながら彼女が戻って来る。


別に急いでもらわなくても構わなかったが、律儀に走ってくれていた。


「はあ、はあ…っ、お、待たせ、しました。遅くなってしまいすみません」

「いえ、」


こんなときの常套句である、「待っていませんよ」は、明らかに嘘なために言えず。


続く言葉を逡巡しての発言は、不自然に切れた。


「…………」

「…っはあ、」


乱れた吐息が潜められて聞こえる。


これ以上話させないためにも、俺が話した方がいいんだろうか。


でもなぁ、そんな余裕はなさそうだしなぁ……。


むしろ、返事をしてくれて、余計に疲れさせるだけな気がする。


どうしようか。
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