となりの専務さん
部屋に戻ると、やっぱりさっきまでのモヤモヤは少しは晴れていて。

思えば、借金のことを誰にも勘づかれたくなくて、最近は学生時代の仲のいい友だちともLINEで連絡を取り合うくらいで、直接会って話したりとかはなかった。

会社の同期の子たちとも、大樹くん以外とは部署が違うからなかなか話せないし、話す時間があったとしても、学生時代の友だちとゆっくり話しづらいのと同じように、同期の子たちともどこか距離を置いてしまうかもしれなかった。

もしかしたら、同年代の子と楽しく会話したいという……そういう寂しさが、今まで多少はあったのかもしれない。


しかも、まさかクロックスの話ができる人がこんなに身近にいたなんて。それもすごくうれしい。




……それでも。
やっぱり専務のことが気になってしまう。


今、葉津季さんとどこでなにを話しているんですか……?



せっかく気持ちが晴れたはずなのに、またすぐにモヤモヤが大きくなってきてしまいそうだった。


そんな時、専務の部屋の玄関が開く音が聞こえ、すぐに部屋の電気も点いた。



「……お帰りなさい!」

私は、つい大きな声で壁越しに専務に話しかけてしまった。



「ただいま」

カーテンの向こうから、専務のいつものやさしくてキレイな声が聞こえた。


「……あの、カーテン、外してもいいですか?」

私がおそるおそるそう尋ねると、専務は、


「いいよ」

と答えてくれた。
私はゆっくりと画びょうをはずし、専務と対面した。



「お、遅かったんですね」

あ、こんなこと言っちゃいけないかな。そんなの専務の勝手だよね。私がいろいろ言うことじゃなかったよね……。


でも専務はとくに気にする様子もなく。


「そうだね。いろいろ話してたからね」

と返した。
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