となりの専務さん
「……結構前から、その……婚約のお話があったということですが、葉津季さんは、専務のおうちとどういう関係がある方なんですか?」

あ。これもつっこんだ話だったかな……。
結局ついいろいろ聞いてしまってるじゃないか私……。
専務が嫌な顔しないから、余計に……。



「幼なじみだよ」

専務はさらりとそう答えた。


「俺も人のことは言えないけど、葉津希も相当なお嬢様でね。家柄も人柄もよく知った相手だから、親からしたらいろいろ都合がいいんだろうな」

「……」

家柄……。
それは、そうだよね。
大手企業の専務を務める人の結婚相手なら……普通はお嬢様だよね。

少なくとも、家に借金のあるような人間なわけがない。


「でも、親が決めた相手とはいえ、確かにいい子だよ。少し世間知らずなところはあるけど、そこはべつにあとからどうにでもなるし。ちょっとぽけーっとしてるけど、やさしくて大事な子だ」


大事な子。
専務から再び聞いたそのワードに、胸がズキンとひどく痛んだ。



……自分から聞いておいて、この話はもう聞きたくないって思ってしまった……。




「……そうなんですね! そんなに素敵な方が近くにいらっしゃったんですね!」

私はウソの笑顔を浮かべて、精いっぱい明るく言った。



専務にとって、葉津希さんは“大事”な人。
私も、大事に思っていただいてはいるけど、きっと次元が違う。


葉津希さんは専務の許嫁で、幼なじみで、家柄のいいお嬢様で。

私は、専務の隣人で、会社の新入社員で、借金があって……そのうえ壁に穴を開けて多大な迷惑をかけてしまっている。



……ショックを受ける方がおかしいくらい、私と葉津季さんじゃ違いすぎる。
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