となりの専務さん
「あの……? どうかしましたか……?」

おそるおそる、そう尋ねてみると。


「……わからない」

「え?」

「なんかよくわからないけど、あまりいい気分じゃないからもう風呂入って寝るよ」

「は、はい……」

どうしたんだろう。私、やっぱり変なこと言っちゃったのかな……。



「…….専務、お休みなさい」

もうこれ以上は私とは話したくないかな……と思い、私はすぐにカーテンで壁を遮った。


床にぺたんと座りこむと、なんだかいろいろ考えてしまう。


……私は本当は、もう少し専務とお話ししたかったけど……専務はやっぱり、私なんかより葉津季さんと話してた方が楽しいのかな……とか、

幼なじみで許嫁ってことは、今はそうじゃないとしても、もしかしたら昔は付き合ってたこともあるかもしれない……とか……。


……親が決めた婚約、って形では結婚できないだけで、気持ちのうえでは相思相愛かもしれない。

……少なくとも、私には到底敵わない、ふたりの関係性があるのは確かだ。



泣きたい気もするけど、涙が出ない。だって、私が専務と釣り合わないのは、当然のことだから。


……それに、グスグス泣いてたら、壁越しに専務に気づかれてしまう。



それでも、暗い気持ちは晴れなくて。だけどさっさと寝てしまおうという気にもなれなかった。

そんな時。


ポーン。

という音とともに、LINEが届いた。


携帯を見ると、それは凛くんからだった。



『さっきはどうも。またいろいろ話そ』


そっけなくもありながら、どこかかわいいとも思えるそのメッセージに、なんだか少しだけ気持ちが和んだ気がした。


『こちらこそありがとう。また話そうね』

……凛くんにLINEを返すと、少しだけ気持ちが落ち着いたように思えた。
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