となりの専務さん
「……実は」

私は、ゆっくりと家の事情を話した。
詳しくは話してないけど、家に借金があって、それで家賃の安いこのアパートに住んでるって。

凛くんはずっと真剣な顔で話を聞いてくれてた。
私はそれがとてもうれしかった。


話し終わると、凛くんも“彼の事情”を話し始めた。


「俺さ……、実は実家がかなりでかい会社で」

「え?」

「子どもの頃から親父の言いなりに育ってきて、それに嫌気が差して、今は家出してる」

「え、え」

「漫画みてぇで驚くだろ、こんなの」

「……いや、べつの理由で驚いてる……」

「え?」

「あ、いや、なんでもない」

事情が……専務と同じだ‼︎ 大きな会社の息子ってことは、御曹司ってことだよね⁉︎ こんな近くにふたりも御曹司がいるとか、どういうこと! こんな安アパートに‼︎


私の動揺には気づかず、凛くんは続ける。

「それで、家賃とか生活費を自分のバイト代で払わねぇといけないから、このアパートに住んでる」

「そ、そうか。大変だね」

「……でも、大学の学費は親が出してくれてる。最初は、親が決めた“いいとこ”の大学なんかすぐ辞めてやろうと思った。でも……大学で今のバンドメンバーに出会って、正直、大学も楽しくて……。結局、親に甘えちまってる」

「そんなことないよ……」

「……でも、俺は昔から音楽が好きなんだ。会社を継ぎたくないのかって言われるとよくわからねぇけど……今は音楽をやってたい。音楽で食っていきたいのかもまだわからねぇけど、でも今は音楽をやってたい。実家にいると、会社を継ぐ準備ばかりさせられるから」
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