となりの専務さん
私が首を傾げると、大樹くんは私の顔に向かって両手を伸ばし、私の頬を顔を軽くつまむと、その手を上に動かした。
私の顔は、大樹くんによってムリヤリ笑わされてるみたいになってる。


「ひょっ、はひひふっ!(ちょっ、大樹くんっ!)」

「広香が大学で友だちとかと話してる時の笑顔見て、お前のこと、いーな、かわいいな、って思ったよ」

「へ?(え?)」

「俺のとなりでずっと笑っててほしいなって思ってたよ。まあ、俺とつきあってる時はあまり笑ってくれてなかったけど」

そう言って大樹くんは私の頬から手を離した。

……大樹くん……。そんな風に思ってくれてたんだ……。


私がその気持ちに気づいていたら、大樹くんとうまくいってたりしたのかな……いや、それはないか……さすがにデートで廃墟とクワガタは辛い……。

でも、ありがとう、大樹くん。



その後、大樹くんのおかけで少し元気になった私は、係長から頼まれた書類を持っていくため、三階の企画開発営業部に向かっていた。

階段を下り、三階の廊下を歩いていると。


(あ……)

正面から、専務が歩いてきた。

会社だし、誰が見てるかもわからないし、それに……もしかしたらまだなにかに怒ってるかな、とか。いろんなことを思い、私は「お疲れ様です」とだけ言って頭を下げて専務とすれ違った。

すると。

「誰も見てないよ」

という専務の声が聞こえ、私は足を止め、専務を振り返った。

専務も、足を止めて私のことを見ていた。
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