となりの専務さん
「あ、あの、あの……お、お疲れ様です」

私はもう一度そう言って、もう一度ペコ、と頭を下げた。


話しかけてくれたのはうれしかったけど……でも、専務が今なにを思っているかがわからない。
まだ、怒ってますか?
今の専務は無表情で、表情から心情が読めない。
いや、専務はいつも無表情なのだけれど、でも、最近は無表情の中にも少しやわらかさがあって、小さく笑ってくれたり、ほほえんでくれたりすることも結構あったから。
それは、あくまで小さな表情の変化。でも、そんな小さな表情の変化にも敏感になるくらい、私は専務のことが気になっている。


「……っ」

そんなことを考えていたら、専務と自然に話せないことが辛くて。自分で専務を怒らせておきながら、専務に笑ってほしくて。

なんだか、涙が出てきた。


「ちょっ」

いきなりの私の涙に、さすがの専務も驚きを見せた。


「なんで泣くの」

「す、すみませ……。なんか、私、専務のこと怒らせてますよね? 申しわけなくて……それに、それに……」

ーー笑ってほしくて。

それは言えなかったけど。

大樹くんに、『笑顔がいいよ』って言ってもらったばかりなのに、いざとなると笑顔になんかなれないことに気づく。

でも、専務の笑顔は見たい。


「……泣かないでよ」

専務はそう言って、右手で私の涙をそっとすくった。


専務の指が、私の顔に触れる。

泣いている最中なのに、それだけでドキッ……としてしまった。
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