となりの専務さん
「俺が帰ろうとして商品企画部出た時、ちょうど専務が来てさ。広香が体調悪そうだから、もし帰る時間が重なりそうなら駅まででも送ってやれって」

「え……?」

「広香、今日どこかで専務とすれ違ってたのか?」

「……」

「広香?」


……今日、専務と会ったのはあの時一回だけ。

あの時は、キスマークの件で誤解されて。
恋愛にだらしのない女だと思われた可能性だってある。幻滅されてたとしてもおかしくないのに。


それでも、心配してくれた。

専務は普段、商品企画部に足を運んだりはしない。
たぶんだけど、私のためにわざわざ来てくれたんだ……。


「……ありがとうございます」

専務の顔を思い浮かべて、私は思わずぽつりとお礼の言葉を口にした。


「え、なに? 俺へのお礼? なんで敬語?」

「あ、うん。大樹くんももちろんありがとう」

「?」

そんなわけで、私は大樹くんと途中の駅までいっしょに帰った。




大樹くんと駅で別れて、アパートまでの道を歩きながら、いろいろ考えた。

考えたというよりは、自然に出てきた気持ち。


専務の、普段は無表情だけど時折見せてくれるやわらかな笑み。

たまに毒舌だけど、やさしい行動。


それから。

仕事に確かな誇りをもってる、尊敬できてかっこいいところ。


キレイな肌も、透き通った声も、もう、専務の全部が。



ーー好き。

今まで、『気になってる』って思ってたけど、もう、そんな小さな気持ちじゃない。
好き。大好き。
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