となりの専務さん
「まだ若干途中だったけど……」

専務はさっきまでの私と同じように、歩道橋の柵に正面から寄りかかり、空を見上げた。


「君のことが心配だったから」

「え?」

「体調悪そうだったから」

……そんなに、心配してくださってたんですね。
大樹くんに任せるだけじゃなく、専務自身もこうして帰ってきてくれた。


専務にいろいろ伝えたいことはあったはずだけど、順番がよくわからなくなり、まずは大樹くんに私といっしょに帰るように伝えてくれたことに対してお礼を言うと。


「……できれば、女の子に頼みたかったけどね。でも、前に部署の女性社員に嫌な目に遭わされてたし」

「あ、そ、それはもう大丈夫です」

「そう。じゃあ今度もしこういうことがあったら女性社員に頼むよ」


……女性社員に頼む、と言っているのは、その方がより安全だから、という意味なのはわかってる。

専務が私に妬くわけないもんね。

でも、理由はなんだとしても、心配してくれることがうれしいんだ。


「……ありがとうございます。本当に。なんだか、初めて出会った時みたいですね」

「ん?」

「あの時は、私が専務の小銭を拾いました」

今思えばあの時の私、専務を専務だと知らなかったとはいえ、


『一円に笑うものは一円に泣くんですよ』


と、なんかちょっとお説教みたいなことを言ってしまった。

きっと第一印象は変な子だっただろう。
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