となりの専務さん
「その数日後、アパートの壁を私が壊してしまって……」

「うん」

「……なんか、いろんなことがありました。でもまだ、初めて会ってから一ヶ月くらいしか経たないんですね」

「そうか」

「……初任給が出るまで……壁の修理まで、あと数日です」


あれ……私、告白をするつもりだったのに、なんでこんな思い出話みたいな……。


思い出……



思い出、になっちゃうのかな。壁が直って、告白もフラれたら、私たちはただの上司と部下になる?
そしたら私は専務にとって、ただの思い出になる?
ううん、思い出にすらならないかも……そのうち忘れられてしまうかも。


そう思うと、正直、一瞬だけ告白をためらってしまった私がいた、けど。



「……えへ」

「え、どうしたの。急に笑って」

私は、笑顔にならなきゃ。笑顔しか人に褒めてもらうとこないんだから。

ブサイクな笑顔でもなんでもいい。笑うと、気持ちも上がるから。


「私……」


だから


「私……」


笑わなきゃ。




「好き、です……っ」

私の目から、涙がこぼれた。
ダメだ、全然笑えてない。


気持ちを伝えるだけでいいって思ったのはウソじゃない。

でも、やっぱり、


フラれるのは辛くてーー……。



ちゃんと伝えられてよかった。

でも、フラれるのは辛い。


私はうつむいて泣きながら、専務からの『NO』の返事を待っていた。



……けど、専務はなかなかなにも言わない。
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