となりの専務さん
その日の夜。


専務のお仕事も早く終わったので、専務のお部屋でいっしょに夕飯を食べていたのだけれど。



「ああ、父親には言ったよ。広香と付き合ってること」

私はご飯をポロリと箸からこぼした。


「い、言っちゃったんですか⁉︎」

「え、ダメだった?」

「ダ、ダメといいますか……しゃ、社長はなんて……? 絶対よく思ってないですよね……?」

私の家に借金があることは、社長ならたぶん知っていると思う。
……あれ? ちょっと待って。もしかして……。


「いえ、もしかしなくても、私と専務が同じアパートに住んでることは社長はとっくに知っていたんですよね……?」

肝心なところですっとぼけてる、と昔からお姉ちゃんによく言われてきた。そうだよ、付き合ってるかどうかはべつとして、自分の息子の隣の部屋に住んでる存在、ということで社長はとっくに私のことを知っていたかもーー……。


「まあ、そうだね」

専務はさらりとそう答えた。や、やっぱりそうだったんだ……。


「もっと言うと、社長だけじゃなくて人事部も知ってるけどね」

「え」

「でも、ほかの誰かに知られることはないと思う。偶然同じアパートになっただけなのに変なウワサが立ったら石川さんがかわいそうだからほかの社員には口外しないようにって人事部には言ってあるから」

実際、同じアパートになったこと自体はほんとに偶然だしね、と専務は言った。

務は続ける。

「社長は、君のこと自体はずっと前からそういう意味で気にしてたと思うよ。そんな君が俺と付き合い始めたって聞いて、つい声をかけたんだと思う」

「そ、そうなんですね……」
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