となりの専務さん
数十分後。部長と社長が揃って応接室から出てきた。


社長は、私のことは見もせずに商品企画部をあとにした。


……あれ、もしかしたらなにか話しかけられるかもって思ってたけど、考えすぎだったかな?

そうだよ。専務も昨日、たぶん大丈夫って言ってくれてたし。
社長はハヅキさんのことも認めてるみたいだってことも聞いたし。

うん、大丈夫大丈夫ーー……。



その後、私は部署の外にある流し台で、応接室で社長と部長がさっきまで使っていた湯飲みを洗っていた。
ちなみに、お茶出しする時に社長と顔を合わせたけど、その時もとくになにも言われなかった。社長の正面に部長がすでに座っていたからなにも言われなかったのは普通のことかもしれないけど。


すると、うしろから。


「さっきは、おいしいお茶を淹れてくれてどうもありがとう」

「‼︎?」

うしろから、突然社長の声がして……心臓が破裂するかと思った。

振り返ると、そこにいたのはやっぱり社長で。

社長は、にこにこしながら私のことを見つめていた。
顔は専務と似ているけど、表情は全然違うなぁと思う。


「え、あ、あ、あのあの……」

わ、わざわざ話しかけてきてくださったのは、やっぱり専務のこと……だよね?
いや、違うかな……? でも自分からは聞きづらいし……。


「若い子にお茶を淹れてもらうと、たまに美味しくなかったりもするんだよね。味が薄かったりとかで。君の淹れてくれたお茶はほんとにおいしかったよ」

ほ、褒めてくださってる……。と、とにかくなにか言わないと……。


「あ、ありがとうございます……っ。私の家、飲食店だったので、お茶の淹れ方は昔から親がうるさくて……はっ」

しまった。実家の借金のことをよく思われていないだろうに、つい自分から、借金で潰れた店の話を……!
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