となりの専務さん
それから一ヶ月が経った頃。


その日は結構な雨が降っていて、仕事が終わったあと、傘を差して足早にアパートまで向かっていた。


(あれ……?)

ようやくアパートに到着したと思ったら、アパートの入り口のところで、誰かが立っていた。
その人も傘を差していたから、その人の姿はよく見えなかったけど、傘がピンクだったし、足元がヒールだったから、あ、女性だなと思った。
中野さんかな? と思ったけど、中野さんの傘は赤色だった気がする。ヒールを履いてるイメージもあまりない。
でも、そうなると誰……?

ゆっくりとその人に近づくと……。


「あ」

「あ」

その人に近づくと、その人もちょうど私に振り返って、思わず声が重なった。

その人は、葉津季さんだった。


「こんにちは!」

葉津季さんは、私がなにか言うよりも先に、元気よくあいさつしてくれた。


「こ、こんにちはっ……」

「石川 広香さん、ですよね? この間、涼ちゃんといっしょにいた」

「え? あ、は、はい……。あ、あの、専務……響さんを待ってるんですよね? あの、今日は会議がある日なので、まだ当分は帰ってこないと思います……」

なんで私の名前を知ってるんだろうと思いながらもそう言うと、葉津季さんはふるふると首を横に振った。

「いえ。涼ちゃんじゃなくて、あなたに用があって」

「え? 私?」

「雨が降ってますが、ここで話してもいいですか? 私は構わないんですが」

「あ、では私の部屋にどうぞ」

「急に上がっちゃっていいんですか?」

「はい。大丈夫ですよ」

壁はとっくに塞がってるし、掃除もマメにしてあるからそれは問題ない。


……でも、葉津季さんが私に話って、いったいなに?
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