となりの専務さん
その後、馬を見て、ヤギも見て、私がヤギにエサをあげるのを専務は見てて。あ、あとアヒルも見に行った。


狭い園内だから全部見て回るのにそこまで時間はかからないはずだったけど、写真を撮ったり、おみやげコーナーも見て回ったり、結局市場の野菜コーナーもゆっくり見てしまったりしたので、時間はすでに夕方だった。


「専務、ごめんなさい。結局ここで一日過ごしてしまって」

「なんで謝るの。行こうって言ったのは俺だし。それに、なんやかんやですごく楽しかったよ」

「本当ですか⁇」

「うん。ケモノ臭い匂いはやっぱり嫌だけど」

「えー」

私はあははと笑った。


それと同時に。



ーー帰りたくないな。


そんな風にも、思ってしまって。

明日は日曜日だから、そこまで急いで帰る必要はないけど、それでもやっぱり、専務を巻き込んでる以上、早く帰らないととは思う。


すると。


専務の右手が、私の頬に触れた。


「専、務……?」

「ワガママ、言いたそうな顔してる」

「え?」

「言ってよ、ワガママ」

専務はやさしい顔で、やさしくそう言ってくれるけど。


「言えません、ワガママなんて……」

いつも、たくさんの温かいものを与えてもらっているのに。自分からワガママなんて、言えない。


だけど。


「俺も、言いたいワガママあるよ」

「え?」

「たぶん、同じワガママ」

すり……と、私の頬に触れていた専務の右手が、そのまま頬を撫でる。
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