となりの専務さん
「やぁ。久しぶりだね」

廊下に出ると、社長は小声でそう言った。

「面と向かって話すのは、あの日以来だね」

「そ、そうですね」

「ここじゃなんだから、上で話そう」

そう言って社長はエレベーターの方へ歩いていく。私も社長の後ろをついていった。



ーー……

社長に続いてエレベーターを降りると、社長室の中へ入るようにと促される。


「あ、あの、社長室の中なんて」

「どうして? 密室にふたりきりだからって、変なことはしないよ」

「そ、それはわかってます。そうじゃなくて、お話ならあちらのロビーとかでも……」

社長室に入るなんて、なんだか恐れ多い。
この階のロビーなら、突然人が来ることはまずないだろうし、そこでいいと思ったんだけど。


「いいから入りなさい」

「でも……」

「誰かに聞かれたくないプライベートな話……っていうのは、君も気づいているだろう?」

そう言われ、私は社長の言う通り、社長室の中へと足を踏み入れた……。


中に入ると、社長の席の正面に座るようにと言われる。

「コーヒーでいいかい?」

「あ、あの、私がやります」

「いいから座ってて」

気持ちは落ち着いているはずだったけど、やっぱりオロオロしてしまう部分もあって。
こういう性格、昔から変わらない。立派な人間にはほど遠い……まだまだ子どもなんだなって思ってしまう。


「はい、どうぞ」

席に着いた私に、社長が淹れたてのコーヒーを差し出してくれた。

「す、すみません」

コーヒーを受け取ると、社長は正面に座った。
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