となりの専務さん
「借金…….返済し終わったみたいだね」

「え?」

「人事部から聞いたよ。一応、社員の借入状況の管理とかはしてもらっていたからね」

「は、はい。私も人事部には完済書類のコピーとか提出して、その」

慌てながらも社長の顔を見ると、社長は相変わらずにこにこと笑っていた。


でも、前に社長の自宅でお話した時とちがって、その笑顔に怖さは感じなくて。



けど。

「お話は……それだけじゃないですよね?」

社長がなにを話したいかは……社長が部署を訪ねてきた時からなんとなくわかっていた。社長もさっき、『プライベートな話』って言っていた。それは、私の家の借金のことだけじゃないと思う。


「……うん。涼太とは、最近どうなんだい?」

社長は笑顔を少し崩して、私にそう尋ねた。


「え、どうっていうのは……」

「別れたんだよね?」

「は、はい……」

なんだろう。ヨリを戻さないようにクギを刺すために私を呼び出したのかな……?


「……そういえば、別れたことはご存じだったんですね……?」

「ああ。涼太から聞いたよ」

「専務から?」

意外。専務が社長にそんな自分のプライベートな話をするなんて。まだあのアパートに住んでるってことは、和解をしたってわけでもなさそうだし……。


などとぼんやりと考えていると、社長は続けた。

「君と別れたらしい数日後に、会社ではなくわざわざ家に帰ってきてそう話していたよ。石川さんとは別れたから、今後、君に目をつけないようにって」

「え……?」

「驚いたよ。あの涼太が、自分以外の誰かを、しかも別れた女の子のことを、そんな風に真剣に考えるなんてって」
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