となりの専務さん
「君は立派な人間だね」

突然、社長がそんなことを言ってきた。


「な、どうしたんですか急に⁉︎」

「なんで謙遜するんだい? 借金、完済したじゃないか。……君の家の事情も大体は把握している。お父さんがなかなか働けないから、君が主に返済にまわっていたんだろう?」

「い、いえ……姉も働いてくれていましたし、父も……。それに、あの、壺……。
と、とにかく、私、立派な人間なんかじゃ……」

立派な人間になることは、私にとってとても大事な目標だったはずだけど、社長に急にそんな風に言われたら、そんなこないですとしか言えない。
……そうでなくても、自分のことを立派だなんて、やっぱり思えない。


「……私、実はコーヒー飲めないんです」

「え?」

「初めに言うべきでした。でも、社長が淹れようとしてくださっていたのでつい言えなくて……。がんばれば飲めるかなとも思いました。でもムリでした……。
私、急なできごとにうまく反応できないんです。すぐ慌てちゃって。そういう、まだまだ立派とはほど遠い部分がたくさんあって」

さっきも感じた正直な気持ちを、私は社長に話した。


すると、社長は。

「……完璧な人間なんていないよ」

「え?」

「自分の弱いところに気づいているなら、それを涼太に補ってもらえばいいじゃないか」

「え? え?」

「あとは、自由にしなさい」

そう言うと、社長は席から立ち……私を残して外に出ていってしまった。
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