となりの専務さん
私が玄関でオロオロしていると、突然、ドアノブが回り、専務が入ってきた。
か、鍵を閉めてなかった……。


「あ、あの、専……っ」

言い切る前に、専務が無言で私を



抱きしめてきた。



「せ、専務っ……?」

専務はなにも言わないまま、私のことを突然ーーその場に押し倒した。


「わっ……、あのっ……」

「……」

専務はやっぱりなにも言わない。
一方私は、いきなりのできごとに頭の整理がつかず、ただぽかんと天井を見つめることしかできない。
自分の顔のすぐ横に専務の顔があることだけわかった。
でも、私を押し倒す専務の力が強くて、顔を動かすことはできず、専務がどんな表情をしているのかはわからなかった。


「こ、ここ玄関です……っ」

私がそう言うと、専務はようやく、私を押し倒す力を少しだけ緩め、体を少しだけ起こした。
そして、ぽかんとしている私の顔をまっすぐに見下ろした。



二年ぶりに近距離で見る専務の顔は、相変わらずかっこいいけど無表情で。
でも、切なそうな顔をしているのも、二年ぶりでもわかった。
……二年間、会話がなくても、至近距離で目と目を合わせたことがなかったけど、ずっと専務のことを考えていたから。専務の表情を読み取ることは、簡単だった。


「専、務……?」

私がもう一度、呼びかけると。


「……借金」

「え?」

「借金、返し終わったんだね」

専務はまっすぐに私を見つめて、そう言った。
< 221 / 230 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop