となりの専務さん
「は、はい……っ。で、でもなんでご存知なんですか?」

「……父さんが教えてくれた」

「社長が……」

専務が私と別れたあとに私のことを社長に話しに言ってくれたことも意外だったけど、社長が私のことを専務に話してくれたことも意外に感じた。

そして、社長がご自身のことを『父親』と呼んでいたことに不思議な感覚を覚えたりもしていたけど、今、専務が社長のことを『父さん』と呼んだことにも、やっぱり不思議な感じがした。


……それと同時に、もうひとつ、不思議な感覚。
今まで、専務が社長の話をする時は、なんとなくピリッとした空気があったけど……今はそれがなかった。

社長が専務に私のことを話したという時に…….なにかあったのかな。
和解、とまではいかなくても、社長が私のことを少し認めてくれたことで、専務と社長の間でなにか変わったことがあるのかもしれない……。



「……あ、あの、なんでさっき、あ、あんなビデオを……?」

「なんでもいいから、君と会話がしたかった」

「え?」

「君の声が聞こえるなら、たとえ顔が見えなくても、壁越しでも、なんでもいいと思った。
でも、無理だった。声を聞いたら、抱きしめたくなって、仕方なくなった」

「専務……」


専務は続けた。


「……なんで言いに来てくれなかったの?」

「え?」

「もし完済したら、すぐに言いに来てくれると思ったよ。言いに来てくれなかったのは、今、ほかに好きな人がいるから?」

「えっ、ち、違います!」

私は慌てて否定して、そしてなんとか上半身を起こした。

……至近距離に専務の顔があるのは、変わらなかったけど。


「あ、あの、ほかに好きな人ができたからとか、そういうわけじゃないです。本当はすぐに言いたかったです。でも……」

「でも?」

「……せ、専務にほかにいい人が出来ていたらって思ったら、どうしたらいいかわからなくて……」
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