となりの専務さん
「そうだ。じゃあさ、結婚式の話はちょっと置いといて……実は、住宅のパンフレットとかももらってあるんだ。いっしょに見ない?」

「え?」

「いっしょに暮らそう。と言っても、今もほぼ毎日いっしょにいるから、そんなに変わることはないかもしれないけど」

「はい……っ」

涼太さんといっしょに暮らす……。確かに今もほぼ毎日、どっちかの部屋でずっといっしょに過ごしているから、いっしょに暮らし始めても特別大きく変わることはないかもしれない。
それでも、いっしょに暮らせることは、やっぱりうれしい。いっしょに暮らしたい。


「でも、いいんですか? 前々から気になっていたんですが、社長と和解したなら、ご実家に帰ったほうがいいのでは……?」

「べつに、君のことでは和解したけど、仲がよくなったとかじゃないし」

「で、でも社長が涼太さんに厳しかったのはちゃんと事情があったじゃないですか」

「いいんだよ。なかよしこよししない方が、そのうち社長の座を奪いやすいから」

涼太さんは珍しくわかりやすい表情で「あはは」と笑った。
私もつられてあはは……と笑った。ま、まあ涼太さんらしいかもしれないです。
それに、口ではこんなことを言っているけど、社長の話をする最近の涼太さんは、前よりずっと表情や雰囲気がやさしいから。


「でも……ちょっと寂しいですね」

「え?」

「このアパートと離れるのは……」

家賃が安いのは魅力的だったけど、家賃が安いだけあって、暮らしにくい部分や不便な部分も正直あった。
今は借金がなくなったから、もう少し暮らしやすい物件に引っ越したい気持ちがあったのも本音だ。

それでも、思い出がたくさん詰まったこのアパートから離れるのは、やっぱり寂しい。
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