となりの専務さん
「でも、やっぱり私にも悪いところがあったことに変わりはないですね」

ケーキを食べ終わり、フォークをお皿の上に置いて、私は言った。


「なんで? 石川さんは一方的に八つ当たりされただけじゃないの?」

「いえ、同じ女性として、誰が誰を好きとか、そういうのは雰囲気でわかるべきでした」

「そのやさしさがいつか身を滅ぼさないといいけど」

そう言って専務はまた小さく笑った。そのほほ笑みも、バカにしたような笑いじゃなくて、やさしい笑みだった。


「ケーキ、本当にありがとうございました」

専務がもやし炒めを完食した頃を見計らって、私は改めてお礼を言った。


「いやいや、こちらこそごちそうさまでした」

専務もそう言って軽く頭を下げてくれる。

専務は続けた。

「商品企画部の女性社員って、思ってたより気が強そうだね。俺が君にケーキをあげたことも、黙ってた方がいいね。君が俺にえこひいきされてるとか周囲に思われそうだ」

「それは、その……」

確かに、そう思われるのは怖い。そんな風に思う人はいないって信じたいけど。でも、そもそも。ケーキをいただいたのは事実だ。もしかしてこれは……すでに立派なえこひいきに入るのでは?


「今日のはえこひいきにはならないよ」

私の心を見透かしたかのように専務が言った。
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