となりの専務さん
「カ、カット!? いえ、ダメです! 伸ばしてるんで!」

私が慌てて言うと、美容師さんは「じゃあ毛先だけ揃えときますね」と答えて、少し安心したけど、


「カラーはどうしますか?」

「カ、カラー⁉︎ い、いえ、私は黒髪のままで……!」

「でも、少し色を変えるだけでだいぶ印象変わると思いますよー」

「で、でもですね! 染めるのは絶対私っぽくないといいますか!」

確かに月野さんたちにも髪形がよくないと言われたけど。あ、私が月野さんたちにああ言われたから、専務は美容院につれてきてくれたんでしょうか……。


そうはいっても、この状況、急すぎていまいち飲み込めない。


……ただ、髪は黒のままがいい。



すると。


「じゃあ、パーマ」

私の後ろで、専務が言った。


「パ、パーマ?」

私が専務に、鏡越しに聞き返すと。


「絶対似合うと思う」

そう言って、専務は私の頭にぽんと右手を置いた。
……鏡に映るそれを見て、ちょっと恥ずかしくなる。


「あ、あの専務、でも私パーマなんて似合わないと思いますし……」

「じゃ、そんな感じでこの子をよろしくお願いします」

「ほんとに頼むので私の話を聞いてください」

私のそのお願いに答えてくれるはずがなく、専務はそのまま店を出ていった。たぶん、後で迎えに来てくれるとは思うけど。



『似合うと思う』

さっきの専務の言葉が、頭の中でよみがえる。
そう言ってくれたことは、本当にうれしかった。
……さっき頭を撫でてくれた専務の右手の感触も、ゆっくりと思い出す。
……やっぱり、うれしく感じる。



……でも、やっぱり私にパーマなんて似合うのかな?

迷ったけど、専務が似合うと思うって言ってくれたし……私は鎖骨の辺りまである髪にパーマをかけてもらうことにした。
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