となりの専務さん
「そうなんですね。よかったです」

「うん。姉も喜んでいたよ。自分でも、メイクすればこんなに変わるんだって。
うちの製品は、姉みたいに肌の弱い人にも充分使ってもらえるものが多いしね」

「はい。私も肌はそんなに強い方じゃないから、この会社の商品ってすごいなと思って、学生の頃から使ってるんです」

「皮膚科学、美容成分、成分構成等の配合に重視していて、ノンアルコール及び香料不使用。ナノサイズのセラミドが……」

「⁇」

「ああ、ごめん。その辺はまた今後勉強してくれればいいから。
……あの時、ひさしぶりに姉の本当の笑顔を見たよ。
あの時、俺はまだ小学生だったから、正直うちで作ってる化粧品のことなんてあまり興味はなかった。
でも、姉をこんなに笑顔にしてくれた……化粧品ってすごいなって思ったよ」

専務の言葉に、専務のルーツを感じた気がした。


「まあ、化粧品に興味があってもなくてもうちの会社で働いていたとは思うけどね。自分の家だし。
でも……そんな事情もあって、俺はこの仕事になによりも情熱を持ってるつもりだよ。これからも、誰よりもなによりも携わっていきたい」


大好きなお姉さんを笑顔にしてくれた、メイクと、鏡台と、そして、お母さん。
お母さんは亡くなってしまったけど、その日、お母さんがお姉さんにしたような……まるで魔法を、今度は自分が誰かにしていきたい、そう思いながらこの仕事をしている、と専務は教えてくれた。



すると突然、専務の長い人差し指が、後ろから私の唇に触れ、そのままツ……となぞられた。


「っ」

突然のことに、私は驚いて、恥ずかしくて、体がピクッと反応した。



「あ、あの……専、務……?」

おそるおそる、触れられてる唇を動かして専務に呼びかけると……。


「……だから君にも、“魔法”、かけてみていい?」

「え?」

「メイクアップアーティストってわけじゃないけど、化粧品のことは詳しいから安心して。商品をただ開発することだけじゃなくて、消費者の声に少しでも応えるために、メイクのバランスとかポイントとか、細かいことも勉強してるから」

「そ、その……?」
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